ビリの成績でどうにか卒業ラインをかすめた三理にとって、今のところ人生で最後にうまくいったことといえば、索紐恩という研究所に研究員見習いとして入れたことくらいだ。この研究所は主に夢の保存・創造・出力に取り組み、夢を見ない現代人に、治療と常識を超えた体験を提供している。
実験ではこれといった成果を挙げていないものの、試験管洗いとコーヒーの目利きにかけては、三理はなかなかの腕前。わずか一か月で、研究所の「試験管洗浄専門員」「コーヒー仕入れ担当」「ラボ清掃総責任者」といった数々の要職を一手に引き受けるまでになった。
ただ頭が痛いのは、三理の手を経た実験機器が、なぜか決まって壊れてしまうことだ。修理に出される機器の数は、三理の見習い期間の長さと正の相関を、三理の見習い給与とは負の相関を示している。
そしてある日——
「損耗品、第2473件」三理が操作台で確認キーを押すと、ホログラム画面に表示された真っ赤な口座残高が、彼女の網膜を突き刺した。そのとき、怪しげな人影が戸口をさっとよぎるのが目に入り、続いて一枚のチラシがドアの隙間からひらりと舞い込んできた。
「ドアに『チラシお断り』って貼っておいたはずなのに、なんでまた!……」
拾い上げて丸めてしまおうとした三理の目に、「仲間募集」「あなたの焦眉の急、解決します」「良心的企業」といった文字が飛び込んできた。そして最後の署名欄には、アルファベットがでかでかと記されていた——VirtuaReal。
どんどん遠のいていく正社員登用の契約と、生活費にも足りない見習い給与のことを思い浮かべ、三理はチラシをポケットにしまい込んだ。
「まあ……試してみるのも、なくはない、かな……」三理は小声でつぶやいた。
これからの活躍に、どうぞご期待ください。