街の南の狭い路地に、小さなフィルムカメラの店がある。
近所の人たちは皆知っている。あの店は商売こそ呆れるほどさっぱりだが、店主は驚くほどの美形だと。暗がりをさまよう鬼たちも知っている。あそこは喉から手が出るほど霊力に満ちているが、店主は息が詰まるほど強大だと。
それも当然だ——街角に隠れ住む鬼族の未来の王に、抜きん出たところがないはずがあろうか? 人を深淵へと誘い込むかのような、その片目の鬼眼ひとつで、彼は人と鬼、二つの世界の境目を見抜けるばかりか、両界のあいだを自在に行き来し、光と闇の力をあわせ持つことさえできるのだ。
彼は千年に一人の鬼界の奇才であり、人と鬼の両界の運命を導く宿命を背負っている。だというのに、ほかならぬ彼自身の運命だけは、乱流に舞う枯れ葉のように、いつまでたっても手のひらに収まってくれない。
母は人間と結ばれ、禁忌を犯した混血児である彼を産んだ。鬼王の後継者の座を狙う百鬼たちは、彼の出自をさげすみながらも、その天賦の才を妬み、隙あらば亡き者にしようと狙っている。当代の鬼王は彼という脅威を恐れ、この見知らぬ人間の街に放り込んだ。名目は育成、その実は追放である……
だが当の本人は、それなりにこの暮らしを楽しんでいる。人間が発明した精巧な品々にすっかり心をときめかせ、なかでも今ではすっかり廃れてしまったフィルムカメラを、何より愛しているのだ。
一族に憎まれた、さすらいの鬼王。時代に見捨てられた、フィルムカメラ。彼がそっとシャッターを切ると、レンズに映る色とりどりの人の世が、静かにその瞳を照らした。
「もしかすると、俺たちこそが生まれついての相棒なのかもしれないな」
これからの活躍に、どうぞご期待ください。