桃代はかつて剣道の名家のお嬢様で、幼い頃から一族の跡継ぎにふさわしくあるよう、厳しい教育を受けて育った。そしてついにある日、稽古と貴族の作法の重圧に耐えかねた桃代お嬢様は、誰もが狙っていた跡継ぎの座をきっぱりと捨て、家出という形で、自分だけの旅路へと踏み出したのだった。
自由を手にしてから、桃代は自分の趣味がいかに幅広いかに少しずつ気づいていった。世界各地を巡り、触れたことのないものを追い求め、さまざまな土地の風土や人情に触れ、いろいろな友人と知り合った。レトロな趣味もたくさんあり、とりわけ画面一枚で世界とつながるこの時代にあって、手書きのはがきに夢中で、届いた返事は一通残らず大切にしまってある。
とはいえ、家出の代償はやはりじわじわと表れ始め、日に日にやせ細っていく財布の問題をどうにかしなければならなくなった。怪しげな街頭チラシで見つけたオンラインの仕事のほかに、桃代は今、とある都会の片隅で、古色豊かな古道具屋を営んでいる。ところが仕入れてばかりでろくに売らず、品物のほとんどは棚に並ぶことなく、桃代の個人コレクション入りしてしまう。その差額は香水の商売で埋め合わせていて、とりわけ桃代が自ら調合した、古風な趣の香水は大人気だ。
それから、店主はしょっちゅう気の向くままに夢を追いかけて出かけてしまい、小さな助手に店番を任せきりにしている。だから、この古道具屋に足を踏み入れて、レジの香水瓶の間に太ったネズミが一匹いるのを見かけても、驚いたり怪しんだりしないでほしい。それが当店の看板ネズミである。
これからの活躍に、どうぞご期待ください。